温泉街の奥まったところに山門が見える。二層の門をくぐると左手にあるのが薬師堂で、入湯客を守護する本尊・薬師如来と日天、月天の脇侍、十二神将がまつられている。
温泉寺は、名湯城崎温泉を開いた道智上人が天平十(七三八)年に開創したとされる。
衆生済度の大願を発して諸国をめぐっていた道智上人は、城崎に入ると四所明神の神託により千日間、修行。その功徳で温泉が湧出したと伝わる。
「縁起」には、仏師稽文との不思議な縁も記されている。稽文は長谷寺の十一面観音像と同じ木から、もう一体観音像を造ろうとしたが病にかかり、像は未完のまま長谷寺近くの寺に安置された。疫病が流行すると観音の祟りとして海に投じられたが、城崎の河口近くに漂着した。
城崎で湯治中に、この像と出合った稽文は、仏縁を感じて完成させ、道智上人に託す。その後、道智上人は現在の地に伽藍を建立する。このことが天聴に達し、聖武天皇から末代山温泉寺の勅号を賜ったという。
温泉の多くには薬師如来がまつられているが、温泉寺では、この十一面観音像が城崎温泉守護の観音様として信仰を集めており、中興の祖・清禅法印が造営した重文・本堂に同寺本尊として安置されている。
三十三年目ごとに開帳される重文の秘仏で、平成三十年四月から三年間、開帳されている。なた彫りで、力強さとともに包み込むような優しさがある。
本堂は和様、唐様、天竺様の折衷様式の建築。薬師堂から石段を上がると十分ほどかかるが、大師山頂までのロープウェイだと途中の温泉寺駅のすぐ前にある。
かつて、城崎を訪れた湯治客は本堂と薬師堂にお参りし、本堂で湯酌を授かってからお湯につかったという。小川祐章住職は「昔から病気やけがが治ったという話は数え切れません。温泉の効能に加え、温泉の守護である十一面観音と湯客を守護する薬師如来のご加護なのでしょう」と笑顔をみせた。
本坊の重文・千手観音像や多宝塔、ロープウェイからの眺望など見どころも多い。
行者まつり 8月5日
開山忌(温泉まつり) 4月23日・24日